「染色」と「塗色」は違います!
「染色」と「塗色」は違います!
クローゼットなどで保管中に、洋服の生地が色あせたりした経験はございませんか。
たとえば、深いモスグリーンのナイロン製のダウンジャケットの衿や袖肩などが黄緑色に変色したり…。
これらは汗の成分や蛍光灯・太陽光による紫外線、防虫剤から発生するガスなどによる影響で起きる現象ですが、ナイロンやポリエステルなどの化学繊維衣類などが褪色してしまうと、その補色は難しく、再染色は「できない」と考えたほうがよいでしょう。
なぜならポリエステルを染色する際、その染色温度は100℃以上の高温でなければ染色することができないからです。上記で示したようなダウン製品類をそのような高温で染色すれば、衣服本体の機能がなくなり、ダウンは保温しなくなります。
また、もう少し技術的解説を加えると、ナイロン素材の場合、ナイロン繊維の不均一性が原因で、染色による均染性が保たれずにムラが生じやすく、さらに幾種類かの染料を用いて染色すればナイロン繊維と親和性の大きい染料が先に結合し、親和性の小さい染料が結合出来なくなり(ブロッキング現象)、思うような色に染まらないといった問題が生じます。よって、反物ではない衣類としての物性や品質を維持しながら、再染色をおこなうことは、先ずできないといってよいでしょう。
このようなことから、もしインターネット上でナイロン素材などの染色事例が紹介されている場合、想像の域は出ることはありませんが、生地の表面を顔料により「塗色」する手法がとられている可能性が高いといえます。「塗色」は読んで字のごとく「塗る」。つまり表面に色を着けることであり、「染める」染色とは根本的に技法が異なります。
衣服の塗色は、一見素晴らしい技術に見えますが、この手法では摩擦・染色・洗濯堅牢度を一定以上保とうとすれば糸の織り目は潰れ、風合いはゴワゴワになることは避けられず、後にクリーニングに出した場合は、表面に塗色された顔料が剥げ落ちることを免れません。塗色効果はあくまで一時的なものであることを知っていただきたいと思います。
以下では「染色」のしくみについて技術的な解説をしてまいります。
染色について
染色とは糸や布などを構成している繊維に染料を付着あるいは吸着または結合させて色彩を与えることです。これは水溶性の染料分子(水不溶性の分散染料のような例外はある)と、繊維の分子間の親和性による現象であり、ここで言う親和性とは、分子の持つ電気的なプラスとマイナスの吸引力や、分子同士の引力に基づく力のことです。
(繊維との親和性による染色はあくまでも染料によるものであり、後述しますが、顔料は染料とは全く違った性質をもつものです)
結合の種類
ファンデルワールス結合 | 分子と分子の間には弱い引力が働いており、その引力の事をファンデルワールス力と言い、その力による結合の事をファンデルワールス結合という。 |
水素結合 | 水分子はわずかに+の電荷を帯びた水素原子とわずかに-の電荷を帯びた酸素原子が電気的な力により結合している。このような結合のことを水素結合と言う。ちなみにその結合力はファンデルワールス結合の10倍。 |
イオン結合 | 正電荷を持つ陽イオンと負電荷を持つ陰イオンの間の静電引力による化学結合のことをイオン結合という。 |
共有結合 | 原子同士で互いの電子を共有することによって生じる化学結合のことを共有結合と言う。その結合力は4種の中でもっとも強い。 |
また染色される繊維の種類は、それぞれの繊維の分子の化学的性質によりその染色性に特色があり、各繊維に対して適する染料があります。
染料の種類と繊維との相性
主な繊維と染料の染色性一覧 (◎:よく染まる ○:やや染まる ×:染まらない)
綿 | 絹 | 羊毛 | レーヨン | アセテート | ナイロン | ビニロン | アクリル | ポリエステル | |
直接染料 | ◎ | ○ | ○ | ◎ | × | ○ | ○ | × | × |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
酸性染料 | × | ◎ | ◎ | × | × | ◎ | × | ◎ | × |
分散染料 | × | × | × | × | ◎ | ◎ | ◎ | ○ | ◎ |
カチオン染料 | × | ○ | ○ | × | × | × | ○ | ◎ | × |
建染染料 | ◎ | ○ | ○ | ◎ | ○ | ○ | ○ | ○ | × |
硫化染料 | ◎ | × | × | ◎ | × | ○ | ◎ | × | × |
反応染料 | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | × | ○ | ○ | × | × |
ナフトール染料 | ◎ | × | × | ◎ | ◎ | ○ | ◎ | × | ○ |
染料と顔料の違い ー顔料による塗色(色補正)はクリーニング事故の温床ですー
染料と顔料の物性における根本的な違いは、染料は水に溶けますが顔料は水にも溶剤にも溶けないというところにあります。また染料は三原色、または補色同志を適度に調合すれば黒色を作ることができますが、顔料は三原色あるいは補色同志をいかにうまく調合しても黒色を作ることはできません。
染色における作用効果の違いとしては、上記特性から、染料は繊維への拡散・吸着・化学結合などが行われるため、上記一覧表の条件に基づき正しく染色すれば洗浄や摩擦に対しての強度が高く非常に安定感があると言えます。
一方、顔料は繊維や水あるいは溶剤に対する親和性はなく、染料のように繊維との化学的結合により色彩を与えるということはできません。そう言った意味においては「染める」というよりも表面に色を「塗装する」と言った方がよいのかもしれません。しかも顔料は顔料自体に繊維に付着する力はなく、バインダーと呼ばれる接着剤(主に使用されるものとして、ウレタン樹脂・アクリル樹脂・シリコン樹脂など)を媒体としてのみ付着できます。
冒頭で述べた「洗浄工程では表面の顔料は剥げ落ちてしまうのは当然」と言える根拠はここにあります。
バインダーに使用される樹脂は油分と仲が良い親油性の高いものですから、それらを媒体とした顔料による色補正を施した衣類をドライクリーニングすれば、当然樹脂はドライクリーニングの溶剤中に溶け出します。同時に顔料も流れ出てしまうのです。
そういった色補正がされていることが明らかでなければ、元々の洗濯絵表示においてドライクリーニングが推奨されている以上、クリーニング店では間違いなくその商品をドライクリーニングするでしょう。つまり、その商品は次のクリーニングで着用できなくなる運命をたどります。
以上のように、化学繊維の顔料による色補正は、クリーニング事故を招く温床といえますので、消費者の皆様におかれましてはくれぐれもご注意ください。
色やけ・変色とその原因については
コチラ